この記事を読むのに必要な時間は約 9 分です。
女優・真木よう子が年末のコミケに参加しようとして批判を浴びた。
一方、夏のコミケに“降臨”し、コミケ参加者に絶賛されたのが叶姉妹だ。叶姉妹はなぜ受け入れられたのか? 彼女たちの言葉を探ると、異文化交流の神髄が見えてくる。
こんばんは
— kazublog (@Nqi19380H) February 3, 2020
叶姉妹は「コミケ」と相性はどうだったのか?
彼女等もいろいろとケースバイケースで勉強してるようであるw
叶恭子
「世界のどのような場所であっても、未知の世界のルールとマナーを熟知しなければ、わたくし達が真の敬意を払っていることが伝わらないでしょう」
女優の真木よう子が年末12月に開催される「コミックマーケット93」(コミケ)への参加を表明したが、参加者などから猛批判を浴びて炎上状態になっている。
結局、真木は謝罪を行い、コミケへの出展を取り消した。
ここで思い出すのが、8月に開催された「コミックマーケット92」に初出展し、極めて好意的に受け入れられた叶姉妹のことだ。
なぜ彼女たちはコミケ参加者たちに好かれ、絶賛されたのか? 彼女たちのブログに記された言葉から、「未知の世界」との付き合い方を学んでみよう。
コミケって!?
「コミックマーケット準備会」が主催する、日本最大≒すなわち世界最大の同人誌即売会である。通称コミケ、またはコミケット。
なお、他の即売会と比べて知名度が別格であるために誤解されがちであるが、「コミケ」は「コミックマーケット」、すなわち「このイベントの個別名称の略称」であって、「同人誌即売会」を包括的に指す言葉ではない。数ある即売会のうちの1つ(そして最大の催事)がコミケである。
叶姉妹は「コミケ」で本気!?
ゴージャスな叶姉妹とオタク文化はまったく縁がなさそうだが、2016年7月に妹の叶美香が『ジョジョの奇妙な冒険』のファンであることをブログで告白。
同年末のコミケに一般客として参加し、無事に『ジョジョ』の同人誌を入手した。
しかし、3日間で延べ50万人以上もの人が詰めかけるコミケに、有名人である叶姉妹御一行がそのまま乗り込めば大混乱になりかねない。
そこで2人はブログなどを活用して徹底的に「冬のコミケの知っておくべき基礎知識のお勉強とお支度」(叶姉妹オフィシャルブログ 2016年12月28日)を行った。冒頭の言葉にある通り、「未知の世界のルールやマナー」を学ぼうとしたのだ。
ブログではとにかく「皆さんのご迷惑にならないように」ということが強調されていた。
「全力で」迷惑にならないように「ベストを尽くす」。コミケでブースを出展するのではなく、ちょっと遊びに行くだけでこの念の入れようである。
叶姉妹はコミケの初心者!?
「勉強」の方法は簡単。「初心者ですのでどうぞよろしくお願いいたします。何か注意事項などありましたらぜひ教えてくださいね」(2016年12月20日)と、わからないことはわからないと素直に認めて教えを請うたのだ。
コメント欄に寄せられるアドバイスに素直に耳を傾けるだけでなく、ツイッターでエゴサーチを行って自分たちへの言及にも目を通した。
最初はコミケスタッフ1万人に人数分の差し入れを準備しようとしたが、大量の差し入れは基本的に禁じられていると知ってすぐに撤回。
歩きやすいように低めのヒールの靴を勧められると、所有しているローヒールの靴の画像を大量にブログにアップしてみせた。
その上で、アドバイスを与えてくれた相手には感謝を伝えることを忘れない。
美香はブログにこう記している。
「皆さんの愛のあるプレシャスなアドバイスに姉も私も心より感謝いたしております」(2016年12月22日)。
コミケ直前はこうしたやりとりを毎日のように繰り返し、参加者たちの理解を得ていった。
叶姉妹の神対応!?
叶恭子
「ジャスト・イン・ケース「念のために」。「万が一にそなえて」。どんなゲームの、どんな局面でも、最後に一枚、自分の手札を残しておくことがとても大切です」
――叶姉妹オフィシャルブログより(2016年7月12日)
叶姉妹は8月のコミケにサークル名「ファビュラス叶組」「プレシャスM組」で初参加。恭子がデザインしたTシャツやコスプレミニ写真集などを販売した。
開始直後から2000人以上の長蛇の列ができる盛況ぶりだったが、用意された3000部はあっという間に完売。列の整理方法などもスムーズでトラブルも起こらず、参加者からは「神対応」という声が上がった。
当日の頒布物がわかる「お品書き」や行列の最後尾を示す「最後尾プラカード」など、コミケならではの小道具も完備。
販売するすべての本には事前に直筆サインを入れ、「他の参加者の皆さんのご迷惑になりますので私達個人で取材をお受けしておりません」(8月4日)という宣言も事前に行って取材の申し込みはすべて断った。すべて現場での混乱を避けるためだ。
完売直後はすぐに名刺の手渡しに切り替え、同時に通販ページにアクセスできるQRコード入りのカードも配布した。
受注生産で手に入らなかった人に頒布物を届けると同時に、法外な値段で転売されることを防止する手段を事前から講じていたことになる。
叶姉妹はたびたび「ジャスト・イン・ケース(万が一に備えて)」という言葉を用いる。
初めてコミケを訪れたときも、カードが使えないことがわかって、余分に小銭を用意したことを「ジャスト・イン・ケース」と表現していた(2016年12月26日)。
「ジャスト・イン・ケース」の精神で対応策を練ったことが「神対応」を生んだ。
逆に言えば、完璧な準備ができているからこそ、本人たちは優雅な振る舞いを続けることができるのだろう。
叶姉妹が固有の文化を尊重!?
それぞれのコミュニティーには固有の文化がある。コミケは開かれた場所だが、一方で閉鎖的な側面もある。
ある意味、異なる国の部族のようなものだ。2人もコミケについて学んでいる最中、「インドやエジプトなどの国を訪れる際にやはり楽しみながらいろいろお勉強」したことを思い出したそう(2016年12月19日)。
遠くから眺めるだけでなく、実際に訪れて“仲間”になるにはその部族のルールとマナーをあらかじめ学んでおく必要がある。
「郷に入れば郷に従え」ということわざの通りだ。それが彼女たちの考える、異なるコミュニティーへの「敬意」の払い方である。
しかも、それは相手の心の柔らかい部分に大きく関わっている。
コミケという巨大な趣味の空間は、そこに集まる人々にとって「神聖な領域」ではなく、恭子が言うように「神聖な心の領域」なのだろう。
ルールやマナーを熟知したからといって、むやみに自分を押し付けたり委ねたりせず、相手を尊重して敬意を示し続ける。
すると、敬意を示された側は、次第に相手に好意を抱くようになる。これはコミケだけに限ったことではない。
叶姉妹はかつてから「他者を尊重すること」を自らのポリシーの一つとして挙げ続けてきた。
自分は自分で自由だし、他人は他人で自由でいてもかまわない。だからといってお互いに好き勝手にするのではなく、相手を尊重し合って良い関係を結ぶことを是としている。
今回、叶姉妹はコミケに対して敬意を示し、コミケの参加者を尊重していたが、決して窮屈には見えなかった。
むしろ、思う存分楽しんでいたように見える。他者を尊重することは、自分自身の自由や楽しみを得るための「必要条件」なのだ。