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まちがいだらけの薬物対策 !? [どうなる問題点は!?]

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違法薬物を所持、使用することはもちろん困難だ。だが、彼らに必要なのは果たして懲罰なのだろうか。

欧米などと比べ、薬物依存対策後進国とも揶揄される日本の現状とは?

 

ヤク中に必要なのは懲役よりも治療である!

2019年11月16日、女優の沢尻エリカが、合成麻薬のMDMAを所持した疑いで逮捕された。

その10日前の6日には元タレントの田代まさしが東京都杉並区の自宅マンションにて、覚せい剤取締法違反容疑としては通算4度目の御用となった。

 

同日には、冬季五輪代表だったプロスノーボーダーの容疑者(31)が、

大麻を密輸した疑いで逮捕されるなど、有名人の違法薬物事件が相次いでいる。

なかでも来年のNHK大河ドラマでの撮影が進んでいた沢尻エリカ容疑者に関しては、

 

連日テレビのワイドショーで取り上げられ、彼女の責任を厳しく問う声で溢れている。これだけの社会的制裁を浴びたうえで、さらに司法の裁きが待っている。

司法関係者によれば、「沢尻容疑者は初犯ゆえ懲役1年6か月(執行猶予3年)が相場で、

過去に同じ罪で2度服役している田代容疑者は実刑の可能性が高い。

 

薬物依存は病気という認識がこれからは必要

 

日本では著名人の薬物事件が起こるたびに、

SNS上で「またか」「全然懲りないな」などの落胆やあざけりの声が飛び交う。そうしたなかで、著名人による極めて不見識な発言があったと指摘するのは、精神科医の斎藤環氏だ。

 

「夜回り先生として知られる水谷修氏が、薬物依存を克服するには、それまでの人間関係や仕事、家族すべて失う“底つき体験”が必要。でも田代さんはそこまでたどりついていなかったと発言しています。

しかし、底つきは10年くらい前にはやった古い概念で、当時者を追い詰めるだけ。周りの人から見放されて孤立すれば、依存症が悪化するどころか自殺のリスクすら高めてしまいます」

 

薬物依存は、人格批判やパッシングでは何も解決されないのにも関わらず

メディアには専門的な知識をもたないコメンテーターが登場し、意見をまき散らしている。

 

では彼らにはどのような治療が必要なのだろうか。

薬物依存症治療の専門家として国内外の事情に詳しい原田隆之氏に聞いた。

 

「今回、田代まさしさんの報道で気になったのは、フードをかぶせた状態で進行する姿を繰り返しテレビで映していたこと。

16年4月、国連総会の薬物問題特別セッションでは、薬物使用者の人権を尊厳を守ることが再認識されています。刑罰だけでなく、社会的なつるし上げをうけた田代さんのケースは国連決議に反しています」

 

この国連総会決議では、刑罰を与えるよりも治療や教育、福祉を優先することが宣言された。

各国ともに薬物密売を重罪としているのは同じだが、薬物使用者まで刑務所にいれているのは、いまや先進国では日本だけだ。

 

「欧米諸国も10年ほど前までは、日本と同様の考え方でしたが、そのあとの研究で

薬物については刑罰より、依存症治療のほうが効果的だということが多くのエビデンスで明らかになりました。

拘禁下で薬物依存症治療を実施した場合、再犯率は約15ポイント低下。社会内で治療するとさらに効果的となり、再犯率はおよそ30ポイント低下することが実証済です。」

 

コスト面でも大きな違いがあり、日本の場合、受刑者1人あたりにかかる年間刑務所関連経費は約380万円。

一方、アメリカ保健福祉省の調査によると、入院治療が1万2000ドル(約129万円)、外来治療にいたってはわずか2700ドル(約29万円)との試算が出ているという。

 

5年間も薬物を絶った田代まさしは立派!

 

だが、本当に治療は実績を上げているのだろうか。

なにしろ田代は、14年7月の出所以来、薬物依存リハビリ施設である「ダルク」のスタッフとして働いていた人物。首をかしげてしまうのは当然だろう。

 

そうした疑問に、日本の依存症治療の現場はどう答えるのか。

アジア最大規模の依存症治療施設である大森榎本クリニック長年依存症の臨床に関わっている精神保健福祉部長の斎藤章佳氏に尋ねた。

 

「薬物依存症は「クリーンで生きる」つまり回復が軌道に乗るまで平均4~5回は繰り返すと言われているので、

田代さんの5回目の逮捕は、回復のプロセスの中ではさほど珍しいことではありません。

 

それよりもむしろ、これまで5年間も薬物をやめることをできていたことを評価すべきです。

ふつう、最初の治療の場合、治療をはじめても数か月で再発する人が多いので、田代さんはよく継続できたな、と思います。再発は回復のプロセスであるという考え方をすれば、むしろ逆に治療はうまくいっていると言ってもいいでしょう」

 

「プログラムの成果が出ていたにも関わらず、また刑務所に入ることになれば、一時期中断してしまいます。

刑務所内でも特別改善指導としてプログラムが実施されていますが、社会内でのそれと比べると治療効果はあまり期待できません。薬物依存者が再発する場合、それぞれに特有の「引き金」があります。

 

そうした誘惑を回避しリスクに対処できる力をつけることが治療の肝ですが、

誘惑自体がほとんど存在しない刑務所に入ると薬物再使用のスイッチが入ることなく、それで治った気になってしまうケースが大半です。」

 

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